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相続が発生すると、相続人全員で遺産分割協議を行い、その協議内容に基づいて相続登記を行うのが一般的ですが、実は遺産分割の方法以外にも相続人のうちの誰か一人(もしくは相続人のうちの複数人)へ名義変更をする方法があります。
それは、相続人が相続分譲渡と言う形を使って他の相続人へ自らの相続分をあげる方法です。
相続分の譲渡をした場合と遺産分割をした場合には不動産名義変更をするための手続きに何か違いがあるのでしょうか。
ここでは、相続分の譲渡と相続登記の関係について解説します。
相続が発生すると各相続人それぞれが民法の規定に応じた法定相続分を持つことになります。そして、各相続人は自らの法定相続分を他の相続人若しくは第三者に対して譲渡することが可能です(民法905条)
この相続分の譲渡は、「相続分譲渡証書」を作成することによって、対外的に譲渡の事実を証明することになります。この証明書は、法務局や税務署、各金融機関にも提出することが想定されますので、必ず実印を押してください。
相続分譲渡証書
被相続人 甲野 太郎
生年月日 大正12年3月4日
死亡日 平成30年1月1日
最後の本籍 横浜市中区中央1丁目2番3号
私は、上記被相続人の相続に関し、私の相続分の全部(債務を含む一切)を、相続人である甲野一郎(昭和23年4月5日生)に対し、譲渡致しました。
平成30年2月25日
[譲渡人]
住所
氏名 実印
[譲受人]
住所
氏名 実印
相続分の譲渡は、相続登記の関係においては、共同相続登記がされる前か後かによって手続きが異なってきます。順番に解説します。
関連する登記先例
1.相続登記がなされる前に、相続人のうちの一人が他の相続人に対して相続分を譲渡した場合には、譲渡後の相続分をもって相続登記を申請することができる。(昭和59.10.15-5196)
2.共同相続人がABCである場合において、Aが自己の相続分をCに譲渡し、BC間が「甲土地はCが単独で取得する」旨の遺産分割協議がなされた場合には、甲土地についてCへの相続登記を申請することができる。(昭和59.10.15-5195)
この2つの登記先例では、共同相続登記がされる前に相続分の譲渡をしたケースの話です。
上の登記先例は、「他の相続人へ相続分の譲渡をした場合には、その譲渡をした相続人を除いて法定相続分での共同相続登記をすることができる」と書かれています。
下の登記先例は、「他の相続人へ相続分の譲渡をした後に、譲渡をした相続人以外の相続人だけで遺産分割協議を成立させて、その協議内容で相続登記をすることができる」と書かれています。(関連記事:登記先例とは)
つまり、これらの登記先例が言うところは、相続登記前に、相続人のうちの一人が他の相続人に対して相続分の譲渡をした場合には、譲渡をした相続人を除いて考えて、遺産分割をしたり法定相続分での相続登記をすることが可能ということです。
関連する登記先例
共同相続登記がされた後、相続人の一人が他の相続人に対して相続分を譲渡した場合には、その登記手続きは持分の移転登記による。登記原因は、相続分の譲渡が有償なら「相続分の売買」、相続分の譲渡が無償なら「相続分の贈与」となる。(質疑登研506P148)
この登記先例では、法定相続分での共同相続登記をした後に、相続人のうちの一人が他の相続人へ相続分の譲渡をした場合について言っています。
この先例を読み解くと、相続分の譲渡は有償でも無償でもすることができ、有償と無償の場合とで登記原因が異なると解することができます。
登記申請書の見本については以下を参照してください。
登記申請書の事例
被相続人甲野太郎の相続人が子供二人(一郎、二郎)である場合において、二人が各2分の1の共有名義で相続登記を申請した後に、二郎が一郎に対して相続分の譲渡をした。
登 記 申 請 書
登記の目的 甲野二郎持分全部移転
原 因 平成30年1月10日 相続分の売買(贈与)
権 利 者 横浜市西区山下町一丁目2番3号 持分2分の1 甲野一郎
義 務 者 横浜市中区本町三丁目20番1号 甲野二郎
添付書類
登記原因証明情報 登記識別情報(又は登記済権利証) 印鑑証明書 住所証明書 代理権限証書 評価証明書
平成30年3月20日申請 横浜地方法務局 ○○出張所
代 理 人 横浜市南区南町1番地
司法書士 法務太郎 電話番号045-123-4567
課税価格 移転した持分の価格 金543万2,000円
登録免許税 金2万1,700円
不動産の表示
~省略~
相続分の譲渡は遺産分割と同様に不動産の権利をいらない相続人が放棄をするものですから、ある意味遺産分割と同様とも考えられ、あえて相続分の譲渡を選択する必要がないように思えます。しかし、実際には意味合いが異なりますので、実務上は相続分の譲渡と遺産分割をうまく使い分けます。
相続分の譲渡は包括的に自らの相続分を他の相続人(または第三者)へ譲り渡すものですが、遺産分割は財産の一部だけを放棄することが可能なため、遺産分割の方が柔軟な手続きが可能です。つまり、相続財産の一部だけを放棄したいという場合には、相続分の譲渡は使うことができません。
また、相続分の譲渡は、遺産分割と違って相続人以外へ財産を譲り渡すことが可能です。遺産分割では、相続人間の承継先しか決めることができませんので、そのことにおいては相続分の譲渡の方が柔軟と言えます。
あと、実務上の使い方としては、共同相続人間において遺産分割がなかなか整わない状況に相続分の譲渡を利用することがあります。
例えば、相続人がABCと三人いる場合に、Cは相続財産もいらないし、相続関係から早く離脱したいと考える場合、Cは相続分の譲渡さえしてしまえば、あとはABの二人で遺産分割をすればいいことになります。
もっともCは相続関係から早く離脱したいのであれば相続放棄をすればいいとも考えられますが、相続放棄には原則として3ヶ月以内にしなければいけない期間要件がありますし、相続放棄をしてしまうと自らの相続分が自分以外の全ての相続人の相続分の割合が増えてしまうことになります。対して、相続分の譲渡であればCは、AでもBでも好きな方へ自らの相続分の譲渡をすることができます。
不動産を所有している人が亡くなったとして、その相続人が10人以上いるケースを考えてください。
これだけ相続人が大勢いると遺産分割を行うのは相当な苦労だということは容易に想像できるかと思います。この多人数であったとしても相続人全員で遺産分割をしなければいけないことに違いませんので、相続人全員の話し合いがまとまるまで、不動産の名義変更をすることはできません。
こういった場合には、協議成立まで相当の時間がかかると想定できますので、話ができた相続人から順に相続分の譲渡をしてもらう方法があります。
相続分の譲渡であれば譲渡人と譲受人の相続人だけで成立しますので、相続分の譲渡をした相続人を除いて、残った相続人だけで遺産分割をすればいわけです(人数が少ない方が遺産分割が整いやすい)。
このように、遺産分割と相続分の譲渡はそれぞれ使い勝手がいい場面が異なりますので、それぞれの事案に応じて活用することができます。
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この記事の監修者
司法書士・行政書士法人よしだ法務事務所 代表 吉田隼哉
開業当初より、相続の分野を専門として業務を行う。
得意分野は「不動産を含む相続手続き」。テレビ「NHKクローズアップ現代」や雑誌プレジデント・AERA等の執筆、メディア実績多数。情報番組での空き家問題の取材実績あり。
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14.持分だけ不動産名義変更する場合の注意点
15.相続による不動産名義変更に期限は存在するのか
16.不動産名義変更は権利であって義務ではない
17.相続発生後に不動産名義変更を放置するデメリット①
18.相続発生後に不動産名義変更を放置するデメリット②
19.住所(氏名)変更登記とは
20.戸籍謄本の一部が戦争で焼失した場合の上申書
21.住民票の除票が取得できなかった場合の上申書
22.農地の名義変更の注意点
23.名義変更を簡単に考えてはいけない理由
24.登記の第三者対抗要件とは
25.不動産の登記簿謄本の取り方
26.不動産の登記簿謄本の読み方
27.相続登記は相続人全員でやらなけらばいけないのか
28.遺贈により相続人以外に不動産名義変更をする場合
29.法定相続分での相続登記
30.遺産分割による相続登記について
31.登記の本人申請とは
32.相続登記をしないまま単独相続人が死亡したら
33.登記先例とは
34.法定相続分での相続登記後に遺産分割した場合
35.相続した借地上の建物の名義変更
36.遺言による相続登記
37.遺産分割調停による相続登記
38.不動産を生前贈与する場合の注意点
39.表示登記と権利登記の違い
40.マンションの敷地権とは
41.胎児がいる場合の相続登記
42.相続登記の後に遺言書が見つかったら
43.相続分の譲渡をした相続人がいる場合の相続登記
44.遺言により不動産を相続人と相続人以外へ相続をしたら
45.相続登記時に付随した私道等の移転漏れに注意
46.相続した未登記建物の名義変更について
47.登記申請の3つの方法(書面・郵送・オンライン)
48.親族間での不動産名義変更は売買か贈与か
49.権利証が見つからない場合の不動産名義変更
50.登記の補正とは
51.登記の取下げ・却下とは
52.登記済権利証と登記識別情報の違い
53.地番・家屋番号とは
54.登記原因証明情報とは
55.所有権保存登記とは
56.相続登記(不動産名義変更)とは
1.相続した不動産を売却する流れ
2.相続した不動産の換価分割とは
3.相続不動産の売却の前提として相続登記が必要
4.相続不動産の売却にかかる経費まとめ
5.譲渡所得税とみなし取得費
6.物件の調査と相場の調べ方
7.住宅ローンが残っていても相続不動産は売れるのか
8.3つの媒介契約とは(一般・専任・専属専任)
9.相続不動産の売却先にするべきは個人か買取業者か
10.不動産売買契約書に貼付する収入印紙額一覧
11.相続した土地の売却に必要な測量
12.遺品整理業者とは
13.遠方の相続不動産を売却する場合の注意点
14.相続をきっかけとする空き家問題
15.相続した戸建てを売る場合の注意点
16.相続したマンションを売る場合の注意点
17.再建築不可物件とは
18.事故物件(心理的瑕疵物件)とは
19.セットバックとは
20.建物解体業者の選び方と相場
21.空き家対策特別措置法とは
22.空き家の譲渡所得税3000万円特別控除
23.相続不動産の売却と瑕疵担保責任
24.不動産流通機構(レインズ)とは
25.相続した不動産の共有持分だけ売却できるか
26.4つの土地の評価方法
27.相続した借地上の建物を売却する方法
28.売却したい相続不動産に住む相続人が立ち退かない
29.認知症の相続人がいる場合の相続不動産売却
30.400万円以下の売主側仲介手数料の改正
31.一部の相続人が不動産売却に応じないときは
32.定期借地権付き建物を相続したら
1.普通失踪と特別失踪とは
2.相続財産の3つの分け方
3.胎児も相続人となるのか
4.法定相続人の範囲について
5.各相続人の法定相続分の計算方法
6.養子の法定相続分とは
7.嫡出子と非嫡出子の法定相続分について
8.内縁の妻(夫)にも相続権はあるのか
9.行方不明の相続人がいるケースの遺産分割
10.認知症の相続人がいるケースの遺産分割
11.相続人の中に未成年者がいるケースの相続まとめ
12.特別代理人の選任申立ての方法
13.相続欠格とは
14.相続人廃除とは
15.戸籍謄本とは
16.遠方の戸籍謄本の取り寄せ方法
17.相続財産に含まれるもの
18.生命保険金は相続税の課税対象か
19.死亡退職金は相続税の課税対象か
20.相続開始後のアパート賃料は遺産分割の対象か
21.名義預金と相続税について
22.香典や弔慰金は相続財産となるのか
23.借金(債務)は必ず相続するのか
24.故人の債務・借金の調査方法
25.病院代等の医療費の支払い義務は相続するのか
26.葬儀費用は相続するのか
27.単純承認とは
28.限定承認とは
29.相続放棄とは
30.家庭裁判所への相続放棄の申述方法
31.相続放棄の3ヶ月熟慮期間の伸長
32.3ヶ月経過後の相続放棄
33.相続放棄の取り消し・撤回
34.相続放棄と生命保険金
35.相続放棄と空き家の管理責任
36.生前でも相続放棄できるのか
37.死亡届の提出
38.準確定申告とは
39.遺産分割協議の流れ・進め方
40.海外の相続人がいる場合の遺産分割
41.相続関係から離脱するためには
42.自筆証書遺言とは
43.秘密証書遺言とは
44.公正証書遺言とは
45.家庭裁判所での遺言書の検認手続き
46.自筆証書遺言と公正証書遺言の比較
47.遺言があっても遺産分割できるのか
48.特別受益とは
49.換価分割とは
50.代償分割とは
51.銀行が故人の預金口座を凍結するタイミング
52.相続した預貯金口座の解約方法
53.相続税申告のための残高証明書と取引明細の取得方法
54.株式の相続手続きについて
55.改正による旧相続税と新相続税の比較
56.相続税の申告方法
57.遺産分割協議が整わない場合の相続税申告
58.相続税の分割払い・物納の方法
59.相続税の各種控除・特例について
60.相続税の申告・納付を怠ったら
61.遺言を書くメリットとデメリット
62.絶対に遺言を書いておくべき人とは
63.遺言執行者とは
64.特別の方式による遺言
65.遺言と意思能力の問題
66.公正証書遺言の作り方
67.遺言公正証書作成にかかる公証人手数料
68.親に遺言を書いてもらうためには
69.遺言の書きなおし・一部修正の方法
70.遺言に記載された財産を生前処分すると
71.付言事項とは
72.複数の遺言が見つかったら
73.遺贈寄付とは
74.遺言作成を専門家へ依頼するメリット
75.相続時精算課税制度とは
76.代襲相続と数次相続の違い
77.遺産分割を放置するデメリット
78.遺産分割調停とは
79.包括遺贈と特定遺贈の違い
80.遺贈と死因贈与の違い
81.除籍謄本と改製原戸籍
82.資格者による戸籍謄本等の職権取得
83.疎遠な相続人との遺産分割
84.成年後見制度とは
85.相続した預貯金口座の調べ方
86.期限付きの相続手続きまとめ
87.遺産分割協議書と遺産分割証明書の違い
88.公正証書遺言の検索方法・調査
89.法定相続情報証明制度とは
90.法定相続情報証明制度の問題点と今後
91.高齢者消除と相続
92.同時に死亡した場合の相続関係
93.準正とは
94.再転相続とは
95.相続財産管理人とは
96.遺留分減殺請求権の行使
97.戸籍と住民票の保管期限
98.相続分の譲渡とは
99.いらない土地を相続放棄できるか
≫実家を亡父親から母親名義に変更する相続登記
≫亡くなった母親から長女へ名義変更をする
≫公正証書遺言が残されていた場合の相続登記
≫5年前に亡くなった父親の相続登記
≫亡くなった兄から名義変更する相続登記
≫田舎にある実家の相続登記
≫父親が残した自筆証書遺言での相続登記
≫亡くなった叔父の自宅の相続登記
≫未成年者が相続人にいるケースの相続登記
≫地主だった父親名義の不動産を相続登記
≫相続した未登記建物の名義変更
≫代位による相続登記後に遺産分割した相続登記
≫母親と父親が順に亡くなった場合の相続登記
≫一部の相続人が相続放棄した場合の相続登記
≫相続した対象不動産がよくわからない相続登記
≫家裁で検認した遺言書を使わずに相続登記
≫売却の前提としての相続登記
≫登記済権利証が見つからない場合の相続登記
≫自宅と原野の相続登記
≫孤独死で亡くなった叔父の自宅を相続登記
1.父親名義の実家を母親に変更したい
2.亡くなった母名義のマンションを名義変更したい
3.父から相続した二世帯住宅の名義変更をしたい
4.単独相続した母親のマンションを名義変更
5.兄から相続した遠方の不動産を名義変更したい
6.父と母が順に亡くなった場合の不動産名義変更
7.叔母から代襲相続したマンションの名義変更
8.父がのこした公正証書遺言での不動産名義変更
9.実家と別荘の不動産名義変更をしたい
10.上物(建物)は自分名義のため土地のみ名義変更
11.権利証を紛失した不動産の名義変更
12.売却の前提として至急の不動産名義変更
13.未成年者がいる場合の相続した不動産名義変更
14.相続税申告が絡む不動産名義変更
15.相続人が12人いる場合の不動産名義変更
16.相続人の1人が相続放棄した後の不動産名義変更
17.遺贈により相続人以外が取得したマンションの名義変更
18.対象不動産が不明な場合の相続登記
19.一筆の土地を分けて兄弟がそれぞれ相続する事例
20.複数ある不動産を遺産分割で相続人が分けて名義変更
1.兄弟で相続した不動産を売却して代金を分けたい
2.父親が他界したので実家を売却して姉妹で分割したい
3.兄弟3人が相続した実家を換価分割する
4.遠方の相続人がいる場合に実家を換価分割したい
5.空き家の3000万円控除を使って売却する
6.事故物件となったマンションを売却したい
7.税金滞納で差し押さえられた相続不動産を売却したい
8.相続した地方の実家を換価分割したい
9.相続人が多数いる場合に換価分割するケース
10.スムーズに相続した実家を換価分割したい
11.相続した定期借地上の建物を売却して解決した事例
12.相続した不要な土地と自宅をまとめて売却
13.入居者がいる相続したアパートを売却して換価分割
14.月極駐車場で貸している土地を換価分割
15.自殺があった相続不動産を売却して換価分割
16.不仲な姉妹共有の相続不動産を売却
17.相続放棄を検討していた家を売却
18.孤独死があった家を相続して売却換価
19.公正証書遺言の内容に従って換価分割
20.平等に姉妹で相続した不動産を売却して分割
・司法書士よしだ法務事務所 代表
・行政書士法人よしだ法務事務所 代表
・NPO法人よこはま相続センター 理事
・一般社団法人相続の窓口 事務長
「開業当初より相続分野に積極的に取り組んでおります。遺産承継業務や遺言執行といった財産管理を得意としております。相続のことならお任せください!」
【保有国家資格】
司法書士、簡易訴訟代理権認定、行政書士、ファイナンシャルプランナー、宅地建物取引主任者、他多数
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